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東京高等裁判所 昭和46年(う)1052号 判決 1971年8月19日

被告人 加藤孝 外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人加藤孝を懲役二年に、被告人角田武満、同楠田宏を各懲役一年六月に処する。

被告人楠田宏に対し、原審の未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

原審における訴訟費用中証人に支給した分を被告人三名の平等負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告人三名の弁護人籠原秋二名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一、所論は原判決の事実認定につき、被告人等が山本隆志に加えた暴行は金員喝取の手段としてではないから同人から金員の交付を受けていても、これを恐喝と認定することはできない。仮りに被告人加藤につき恐喝と認め得るとしても、被告人角田、同楠田と共謀した事実はないから、右両被告人について恐喝を認めることはできない。被告人等三名共謀による恐喝を認定した原判決は事実を誤認したものと主張する。

記録を精査すれば、次の事実経過が認められる。

被告人等三名及び高橋政治は、いずれも丸十建設工業株式会社に雇われていたが、昭和四五年八月一二日当日の仕事を終り、会社食堂でビールを飲むうち、更に寒川町の呑み屋「ちどり」へ行って飲むことになり、被告人加藤は四トン積ダンプカー、同角田はライトバン、同楠田及び高橋は二トン積ダンプカーに分乗して会社を出た。三台の車は連続して走ったわけではなく、「ちどり」を目指して各自に走行する途上、被告人加藤は自己の運転する車が山本隆志運転の大型貨物自動車に追越されたことに文句をつけるべく執拗にクラクションを鳴らしつつ、その後に追従して停車させようとしたが、山本が停車しないのみか、振返って「うるさいな」等言つた様子を見て益々腹を立てて追走を続け、山本が目的の場所、寒川町田端一、五九一番地の川西モーター株式会社工場前に至つて停車するや、続いて自車を停め、シノを携えて山本車の運転席へ行き同人の胸元へシノを突き付ける等威嚇して同人を下車させると共に、同車両のエンジンキーを取上げた。その頃角田、楠田両被告人及び高橋が前後して同所に来合せ、被告人等で山本を取囲み、被告人加藤は憤激の情にまかせて山本の頭部を殴りつけ、同人が抵抗しても無益であることを思い、ひたすら陳謝し畏怖している状態を見て、これに乗じ同人から金員喝取の意図を懐き、その提供を求めたが、同人が家へ帰る金しか持つていない旨を答えて直ちに応じないため、それではキーを返さないと告げて車による脱出の途を断ち、困却した同人がその場を走つて逃げ出すや、被告人等はこれを追跡して捕え、路端に殴り倒したうえ、交々殴打、足蹴等、ところ嫌わず暴行を恣にした。そのままでは、なお引続き危害の及ぶことを恐れた山本は已むなく被告人加藤の言うままに合計三、〇〇〇円の現金を被告人等に交付して漸く被告人等の暴行継続を免れ得たが、それまでの暴行により肋骨々折、右眼失明に近い重傷を負わされた。

これら一連の事実を検討すると、被告人加藤が山本に対し脅迫暴行を加えた当初は、同人に馬鹿にされたと考えて憤激の余に出たものであつて、金員喝取の手段としたものではないと認め得るが、その結果、山本の畏怖している状態に乗じて金員喝取の意図を生じ、来合せた他の両被告人と意を通じ、更に激しく暴行を加えて畏怖の念を深め、結局三、〇〇〇円の現金を交付させているのである。この行為が恐喝罪を構成するに欠けるところはない。また被告人角田、同楠田は被告人加藤が山本に最初に脅迫暴行を加えた頃よりその場にあつて、被告人加藤の言動を目前に見聞しており、これを阻止しなかつたのみか、山本が難を逃れようとしてその場より逃走を図るや一斉に追掛けて同人を捕え、殴打足蹴の暴行を加えて、現金を提供せざるを得ない状態に追込んでいるのである。被告人加藤の意図を諒承して互いに意思を通じ、その実現に協力したことは明白であり、被告人等に恐喝につき現場共謀のあつたことは明らかである。

原判決の摘示する犯罪事実は、その表現が粗雑の譏りを免れないが、証拠と比照して読めば前叙の事実を判示したものと認め得るから、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認があるとは認め難く、所論は理由がない。

二、職権により調査するに、原判決は被告人等共謀による恐喝罪と傷害罪を認定し、両罪を併合罪として処分していることが明らかである。しかし本件における被告人等の山本隆志に加えた一連の暴行は一面において恐喝の意図を達する手段として、他面同人に対する敵意の表現として行われたものであり、その結果山本を畏怖させて金員を交付させると共に、同人に原判示傷害を負わせたのであつて、一個の行為で数個の罪名に触れる場合に当る。両罪を併合罪として処断した原判決は法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、破棄を免れない。

よつて刑訴法三九七条一項、三八〇条、三九二条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従つて被告事件につき更に自判する。

原判示犯罪事実に法令を適用すれば、被告人等の各所為中恐喝の点は刑法二四九条一項、六〇条に、傷害の点は同法二〇四条、六〇条、罰金等臨時措置法三条一項に該当するが、両者は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により犯情の重い傷害罪の刑に従い、各被告人につき所定の刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内において量刑する。被告人等の所為は無抵抗の被害者に加えられた兇悪ともいうべき、常軌を逸した不法行為であり、その結果は被害者に財産的被害の外、回復不能の重傷を負わせ、爾後の生活に甚大な支障を与えているのである。捜査段階において強盗致傷の容疑をもって取扱われたことも理由のないことではない。その刑責は重大といわなければならない。被害者に慰藉料等を支払い示談の成立したこと等所論の挙げる利益な情状を斟酌しても安易な処断の許される事案ではない。被告人加藤孝を懲役二年に、被告人角田武満、同楠田宏を各懲役一年六月に処するを相当と判断する。被告人楠田に対する原審の未決勾留日数の本刑算入につき刑法二一条、原審における訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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